思い出し日記

「阿部さんはこれから予定あるの?」

「ディズニーランドに行きます」

大学1年生、部活に入りたての夏休みだった。

夏休みといっても9月に入っていて、世間的には新学期を迎える中、高等遊民のような心持ちだった。その日は朝から活動をほんの少しだけして、遅い歓迎会がてらお昼を食べようということで集まっていた。部活には顧問が1人、先輩が1人。そして私が入ってようやく部活として成立するかしないかみたいなところだった。

お昼を食べたら解散とのことだったので、入ったバイト代で好きなことをしてやろうという気持ちだった。過ぎ去った誕生日にもディズニーランドに、しかも泊まりで行ったのにわざわざアフター6で行こうというのには理由があった。

その年の9月、あるアトラクションがクローズすることが決まっていた。最後にもうひと乗りでもしておこうという、そんな気持ちだった。あとバイトを頑張っていたので休みの日くらい自分に甘くてもいいかな、なんて思ったのもあった。

そのことを先輩に話すと、へえ、という相槌と独り言のような台詞がこぼれた。

「私も行こうかな」

来るのか。と思った。別に一緒に来てほしくないとかではなかった。ただ単に、むちゃくちゃフットワークが軽いことに驚いたのだ。

「いいですね!一緒に行きましょう」

こうして先輩と私はディズニーランドに行くことになった。

 

先輩は上京して大学に通っている人だった。ディズニーランドには家族旅行で1、2回行ったことがあるくらい、と言っていた。いつも趣味の話くらいしかしない先輩が、その日はよく家族のことを話してくれたように思う。

妹がいること。ディズニーランドは家族で行く場所だと思っていたこと。ホテルにも泊まったこと。遠い実家のこと。

ゆったりとした言葉が、午後の電車の揺れと重なって心地よかった。

舞浜駅に着いたのは16時過ぎ。早く着きすぎたのでディズニーランドホテルを見たりボンボヤージュやイクスピアリを回ったりして時間を潰した。ディズニーリゾートラインの1日券を買って、3週くらいした。

18時になってようやくパークの中に入る。とりあえず目当てのアトラクションに並ぶ。18時を過ぎると流石に薄暗いけれど、その薄暗くなる空を飛ぶのも良いと思った。先輩と2人、機体に乗り込む。高さがあるからか、思っていたよりも風を感じた。見下ろすトゥモローランドは近未来の光を放っていて、この景色が観られなくなるのは惜しいなと思った。

最後の試験飛行を終えて、カレーを食べに向かった。カレーが好きだったし、平日と言えどそこくらいしか空いていないだろうと思ったのもあった。

カレーを食べ終わるか終わらないかくらいのところでエレクトリカルパレードが始まってしまった。慌てて食器を片付けてパレードルートまで向かった。

「ちょっと変わった?」

「あ、LEDになりましたね。いつだったか忘れましたけど」

そんな会話を細々としながら、ミッキーに手を振った。先輩は写真を撮っていた。妹に見せるのだと言っていた。

パレードが終わって混み合う中、お土産屋さんに向かった。それぞれ買い物をして帰路に着いた。

先輩はプーさんのフィナンシェを手に取っていた。家族が好きだったという。

一方私が買ったのは紙箱のお茶漬けだったので、なんとも味気ないなと思った。

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